※別府冷麺の麺はそば粉を使用しているため、そばアレルギーの方はご注意ください。
湯けむりたなびく温泉街。美味しいご当地グルメをいただくことは、旅の楽しみのひとつです。別府ならではの地獄蒸しをはじめ、とり天や関あじ関さば、りゅうきゅうなど大分の郷土料理も旅行客に人気の料理です。そんな中、火照った湯上がりにぴったりのひんやりグルメ「別府冷麺」があるのをご存知でしょうか。
別府冷麺についてご紹介します。
別府冷麺にはこれと決まった
カタチ・定義がありません
別府市の認定制度などもありません。全国各地で食べられている、いわゆる焼肉屋さんの冷麺とも少し様子が違っています。別府冷麺は、お店によって異なる食べ物。麺、スープ、キムチ、チャーシュー、それぞれが独自に進化を遂げ、特徴を持っています。
別府冷麺のルーツはそれぞれのお店、もしくは家庭の味にあります。「何を持って別府冷麺というのか?」その問いに答える明確な返答はないんです。
お店ごとに独自の改良を重ね、味や具材に特徴がある別府冷麺。まるで別府の町そのものを表しているかのように、ゆるやかに自由に、多様なスタイルを持っています。
現在も食されているのでしょうか。
その秘密は別府の冷麺の歴史にありました。
別府で冷麺を最初に提供したのは、焼肉「春香苑」の木村きぬゑさんの夫である金光一さんだと言います。金光一さんが暮らしていた満州では、冷麺が食べられていました。
朝鮮にはオンドルという暖房があり、外気は冷たくとも部屋の中はとても暖かかったといいます。そんな中、ひんやりする冷麺がよく食されていたようです。真冬でも湯上がりぽかぽかの別府人と、共通する点がありますね。
そんな経緯から金光一さんは、焼き肉と冷麺を提供する食堂「アリラン」を開業しました。
キムチも麺もスープも、それぞれ違うんですけど、それでいいんですよね。
さん
「私は19歳で結婚し、20歳くらいから冷麺を作っています。夫が、現在も営業している海門寺公園そばの焼肉店『アリラン』を開業し、数年してお店を他の人に譲りました。その後他の仕事もしてみたのですが上手くいかず、焼肉「春香苑」を開店したそうです。最初の頃は麺を作る機械が重くてね、本当に大変でしたよ。今は少しずつ改良されてきたかな」と語るきぬゑさん。
「春香苑」をオープンしてから、冷麺が日本人好みの味付けになるよう、魚介系の出汁を入れたり、キムチを辛すぎないように改良したりと工夫を重ね、現在の冷麺へと変わっていったといいます。開店当初は「別府冷麺」という名称はありませんでした。
「キムチは家庭それぞれの味が出るもの。家ごとに浸け方が違うので、もちろん味も異なりますね。熟成度合いも好みによって変わります。酸味が強いもの、辛味が強いもの、熟成させずさっぱりしたものなど、みんなまったく違う個性を持っているんです。キムチも麺もスープも、それぞれ違うんですけど、それでいいんですよね。だって家庭料理だって、それぞれ味が異なるものですから」
人から人へ様々なかたちで広まり、
いつしか冷麺は他の飲食店でも提供されるようになりました。
そして現在、焼肉店の冷麺があり、
ラーメン屋の冷麺もあり、食堂の冷麺もあり。
お店ごとにこだわりと特色があり、
千差万別の「別府冷麺」文化が花開いています。
焼肉 春香苑
老舗焼肉店で味わう伝統の味別府の老舗焼肉店。小麦粉、そば粉などを使った自家製の手打ち麺が特徴です。辛さ控えめで食べやすい自家製キムチの他に、フルーツがあるのも珍しいポイント。
昆布やいりこなどから出汁をとった、和風のさっぱりスープと豚肉チャーシューで、食べごたえも十分。親子3代で訪れることもあるという、客層の広いお店です。別府市民に愛され続ける定番の味が楽しめます。
一休の泪
スタイリッシュな味と空間「満州から製麺機を持ち帰った祖父が作る、おいしい冷麺の味を伝えたい」と、2015年にオープンした「別府冷麺」専門店。金色に輝くスープに白い麺、見た目にも美しく、フォトジェニックな別府冷麺が味わえます。県内外に熱烈なファンを多く持つ人気店です。
こだわりの自家製麺は「多加水麺」で、水加減が難しく練るのが大変な製法。つるつるもっちりしてコシのある麺です。かつお・昆布・牛骨をじっくり炊いたスープは優しくすっきりとした味わい。かぼすこしょうを入れると香りが広がり、ひと味違った味わいになります。
六盛
コシの強い麺と和風スープが絶妙平成13年(2001)6月オープンの冷麺専門店。そば粉の入った自家製麺が特徴です。国産牛と昆布、いりこなどから作られたスープは、あっさり系が好みの人におすすめです。太くコシが強い麺で、つるんとした喉越しです。食べた直後はかなりの満腹状態ですが、あっさりしているのでスッと消化できてしまいます。
自家製のキャベツキムチは、細かく切ったキャベツのシャキシャキした食感が楽しめ、酸味の効いた味。国産牛のすね肉を煮込んで作られたチャーシューは、噛みしめると旨味が口に広がります。
胡月
もちもち太麺でボリュームあり1960年代後半から冷麺を作ってきたお店。天然水と昆布を中心に出汁をとり、醤油と塩で味付けした上品なスープが特徴です。主な具材はキャベツキムチ、牛肉チャーシュー、ゆで卵など。それにネギとゴマがかかっています。もちもちっとした太麺はコシが強く食べごたえあり。
季節にはカボスを絞っていただきます。こちらも常時行列ができる人気店。初めて「別府冷麺」と銘打ったといわれています。
大陸ラーメン
昔ながらの素朴な味が嬉しいJR別府駅にほど近いお店。そば粉の入った麺と牛肉チャーシュー、ゆで卵、キャベツのキムチ、ネギとゴマがのった、シンプルでオーソドックスな冷麺を味わえます。味はさっぱりしており、歯ごたえのあるシコシコ麺が特徴的。
小腹が空いたときにちょうどいいボリューム感です。湯めぐりの合間に、ふらりと立ち寄ってもいいかも。飲んだ後の締めの一杯にと立ち寄る人も多いそうです。
別府冷麺一番
屋号に冷麺を掲げリニューアル昭和60年(1985)創業のお店。令和3年(2021)7月には「ラーメン亭一番」から「別府冷麺一番」に名称を変更しました。
30年以上使われている製麺機で作られるのは、そば粉入りの自家製麺。注文を受けてから製麺します。もっちりと弾力がある丸麺と、国産牛ベースにカツオを加えた和風出しが特徴。酸味があるキャベツのキムチが絶妙に絡み合う一品です。
気になるお店は見つかりましたか?
それぞれに歴史があり、工夫があり、こだわりがあり、一言ではくくれない別府冷麺。共通していたのは「美味しい冷麺を食べてもらいたい」「別府冷麺を通して別府をもっと盛り上げたい」というお店の気持ちでした。
「今日はこのお店、次の日はあっちのお店」。そんな風に、違いを楽しみながらそれぞれの特徴を味わい、食べ比べてみてくださいね。